【映画評】ダリオ・アルジェント『ダークグラス』(2021)(感想)

『ダークグラス』(原題:Occhiali neri)(2021)の概要

スタッフ

上映時間85分(1時間25分)
制作年2021年
製作国イタリア、フランス
担当名前
監督・脚本ダリオ・アルジェント(『サスペリア』(1977)、『フェノミナ』(1985))
脚本フランコ・フェリーニ(『フェノミナ』(1985))
カルロ・ルカレッリ
出演イレニア・パストレッリ (『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』(2015))
Xinyu Zhang
アーシア・アルジェント (『雨上がりの駅で』(1996)) ※監督の長女

予告編

あらすじ

イタリア・ローマで娼婦ばかりを狙った猟奇的な連続殺人事件が発生。
その4人目のターゲットにされたコールガールのディアナもまた殺人 鬼に執拗に追いかけられ、ある夜、車を衝突させられ大事故に遭い、一命は取り留めるも両目の視力を失う。
同じ事故で両親を亡くした中国人の少年チンとディアナに絆が生まれ、一緒に暮らすこととなるが、サイコパスの殺人鬼はその後もしつこくディアナたちを殺害しようとつけ狙う。

感想

日本公開時には、82歳になるイタリアン・ホラーの巨匠のダリオ・アルジェント監督の『ダリオ・アルジェントのドラキュラ』(12)以来の十年ぶりの新作。

2021年に制作された新作と聞くと驚きを感じる、レトロな雰囲気を纏った、原点である「ジャッロ」作品だ。

そもそも「ジャッロ」とはなんなのか?

アルジェント監督作品を見慣れた人なら「ジャッロ」は知っているかもしれないが、それ以外の、特に若い人は知らないかもしれないので、Wikipediaの定義を引用しておく。

「ジャッロ」映画の作品群は、過度の流血をフィーチャーした引き伸ばされた殺人シーンを特徴とし、スタイリッシュなカメラワークと異常な音楽のアレンジをともなう。字義通りのフーダニットの要素は保たれてはいるが、スプラッターなモダンホラーと結合し、イタリアで永年続いている伝統であるオペラを通じてフィルターをかけられ、荒唐無稽な「グラン・ギニョール」的な劇作を示す。通常、ふんだんなヌードや性描写をも含む。

「ジャッロ」作品は、狂気や疎外感、偏執病といった強力に心理学的なテーマを導入することを典型とする。たとえば、セルジオ・マルティーノ監督のIl Tuo vizio è una stanza chiusa e solo io ne ho la chiaveEye of the Black Cat、1972年)は、はっきりとエドガー・アラン・ポーの短篇小説『黒猫』を下敷きにしている。

印象的な音楽の使用でも有名である。ダリオ・アルジェント監督と作曲家エンニオ・モリコーネ、音楽監督のブルーノ・ニコライ、そしてのちのゴブリンとのコラボレーションがもっとも知られている。

Wikipedia「ジャッロ

映画においては、1970年代に活躍したイタリアの映画監督のマリオ・バーヴァや本作の監督、ダリオ・アルジェントの作品のことを言うため、今作に古さを感じるのも仕方が無いかもしれない。

具体的に「ジャッロ」らしさを挙げると、主人公の不必要なまでの唇に塗った口紅の赤さ、黒の革手袋や、鋭利なナイフ、金属製の針金?のようなものでの絞殺シーンと、特徴を書き出すとキリがないくらい盛り込まれており、恐らく従来のファンからすると、コレがいい!となる感じだろう。

ただ、この様式美とも言える「ジャッロ」の価値観が反映された本作で、自分は残念な部分があった。

「太陽と死は直視できない」(ラ・ロシュフーコー)

冒頭、物語は日蝕の場面から始まる。
その中で、とある登場人物が、フランスのモラリストであるラ・ロシュフーコーの「太陽と死は直視できない」という言葉を口にするのだ。

そこで、タイトルにもなっているダークグラス(サングラス)をかけることで直視できないものを直視することが出来るようになる。

このフレーズを読み解くと、彼女は盲目になりダークグラスを通じて、死を直視するようになったという意味ではないか。
現に、失明する原因となった事故を起こした娼婦を狙う犯人に命を狙われるのである。

ただ、意味深な名言や日食といったモチーフは冒頭で一部使われるだけで、内容は単なる連続殺人事件に留まってしまったのが残念だ。

SNSでの反応

綾辻行人さん

よしもとばななさん

https://twitter.com/y_banana/status/1645355572823490562

若島正さん

千街晶之さん

出典・コピーライト