【映画評】『ベイビー・ブローカー』(ネタバレ有り感想・あらすじ・相関図)

『ベイビー・ブローカー』(原題:Broker)(2022) の概要

上映時間130分(2時間10分)
制作年2022年
製作国韓国

『ベイビー・ブローカー』のスタッフ

担当名前
監督・脚本・編集是枝裕和(『万引き家族』(18)『そして父になる』(13))
制作総指揮イ・ユジン
プロデューサーソン・デチャン、福間美由紀
撮影監督ホン・ギョンピョ(『流浪の月』(22)『パラサイト~半地下の家族~』(19))
照明パク・ジョンウ
美術イ・モグォン(『新感染半島 ファイナル・ステージ』(20))
音楽チョン・ジェイル(『パラサイト~半地下の家族~』(19) Netflixドラマ『イカゲーム』(21))
出演ソン・ガンホ(『パラサイト~半地下の家族~』(19)) ※第75回(2022年)カンヌ国際映画祭男優賞受賞
カン・ドンウォン(『新感染半島 ファイナル・ステージ』(20))
ペ・ドゥナ(『空気人形』(09)『リンダ リンダ リンダ』(05))
イ・ジウン/IU(歌手) (ドラマ『マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜』(18))
イ・ジュヨン(ドラマ『梨泰院クラス』(20))
イム・スンス ※子役
パク・ジヨン ※赤ちゃん役

『ベイビー・ブローカー』の登場人物の相関図

『ベイビー・ブローカー』相関図

予告編

あらすじ・紹介文

『万引き家族』(18)などでも世界各国で高い評価を受ける是枝裕和監督の韓国映画として初めて撮られた最新作。

古びたクリーニング店を営みながらも借金に追われるサンヒョン(ソン・ガンホ)と”赤ちゃんポスト”がある教会で働く児童養護施設出身のドンス(カン・ドンウォン)。

ある土砂降りの雨の晩、二人は若い女ソヨン(イ・ジウン)が”赤ちゃんポスト”に置き去りにした、赤ん坊をこっそりと連れ去る。
彼らの裏稼業は、赤ん坊を欲しがる人々に転売をするベイビー・ブローカーだ。

しかし、翌日思い直して戻ってきたソヨンは赤ん坊が居ないことに気付き、途方に暮れる。警察に通報されることを恐れたサンヒョンとドンスは自分たちの裏稼業を打ち明ける。

こうして彼女は二人とともに養父母探しの旅に出ることに。

一方、彼らを検挙するためずっと尾行してきた刑事スジン(ペ・ドゥナ)と後輩のイ刑事(イ・ジュヨン)は、是が非でも現行犯で逮捕しようと、静かに後を追っていく。

感想

是枝裕和監督は、いわゆる「家族」という主題を追求して数々の名作を撮られてきた映画作家です。
そこに今、近年高い評価を受けたポン・ジュノ監督の『パラサイト~半地下の家族~』に代表される、韓国映画の俳優やスタッフなどが加わることで、新たな一作がまた誕生したとも言えます。

”ブローカー”たちが赤ん坊の幸せを第一に考え出すまでの物語

赤ん坊という命を売買するという仕事をする”ブローカー”たちは、稼業から想像される暴力性や冷酷さとは乖離して、子供が施設で育つより家庭で育ったほうが良いという考え方を持っていることが徐々に明らかになっていきます。

彼ら”ブローカー”は道中、赤ん坊の世話をします。時には交代制を提案し、面倒を見ることすら楽しそうに行うのです。その時には、施設から途中でワンボックスカーに乗り込んできた少年ヘジンも一緒に自分も担当すると提案します。ここはまるで家族のようなシーンです。

さらにこの後、この少年ヘジンが起こすハプニングで、ガソリンスタンドの洗車の場面はさらにブローカーと母子と少年たちの絆を深めるシーンとなるのです。

車が洗車機を潜ろうとしたとき、少年ヘジンが窓を開けてしまったために、大量の水がワンボックスカーの中に降りかかり、互いにびしょ濡れになった姿を見合って全員が笑いあう。後に少年ヘジンが、またこの遊びをしたいと振り返るようにとても温かなシーンでこの時に彼らは一つになり始めたとも言えるのでしょう。

そして、道中さまざまな困難を経て、ようやく条件に合う養父母を見つけたときに、サンヒョンは「この子の未来についてみんなで話し合いたい」と彼らに告げます。そうした過程をスローではありますが、丁寧に描いていきます。

「そして母になる」二人

是枝裕和監督には『そして父になる』(13)という傑作がありますが、『ベイビー・ブローカー』は裏表となる作品のように感じます。母になることを選ばなかった女性たちが赤ん坊との旅を通じて、”母”になっていく。一人は子供を捨てた母ソヨン、そしてはっきり描かれていませんが母になることを選択しなかったスジン刑事がその二人です。

旅を通じて家族を知り、母になっていくソヨン

『そして父になる』(13)の公開時に是枝監督が女性と異なり男性は子を持つだけでは父になれないと実感を話したとき、女性も子を生んだからといって皆が母になったと実感出来るわけではない、母性が芽生えずに苦しむ人もいる人もいると言われ反省して、『万引き家族』(18)と双子になるこの作品を作ったと語っています。

その言葉を反映している人物として、ソヨンが最初は受け止められるのですが、前の方で書いた旅を通して彼女も徐々に変化していくのです。

最後の彼女の行動は、この映画のなかでも涙を誘うシーンの一つでしょう。

スジン刑事と『マグノリア』のAimee Mann「Wise Up」

そして、この映画では”ブローカー”たちを追う側として出てくるペ・ドゥナ演じる刑事のスジンについてのパーソナルな背景描写は詳しくはされません。ですが、最後に彼女は、二人目の母親になったのだ、と強く印象付けられるワンシーンがあります。海岸のシーンです。

なぜ、そのような結果になったのかは、映画を観た自分にもあまりよく分かりませんでした。実際、敢えて端折られているというコメントもあります。ただし、彼女の心に変化が見られる兆しが見られる特徴的なシーンが登場します。

途中、彼女が夫に電話を掛けるシーンが印象的です。夜の雨の中、スジン刑事が車の中にいるときにAimee Mannの「Wise Up」が外から聞こえてくるのです。この曲を夫に伝え、一緒に観たこの曲が流れるポール・トーマス・アンダーソン監督の映画『マグノリア』の話をします。『マグノリア』は、様々な家族がそれぞれの心を傷つけ孤独にさせるかを描いた感動的な群像劇な大作です。

是枝監督の本来縁もゆかりもないはずの人々がふとしたきっかけから「家族的」といえる共同性を形作っていく形とは陽の作品群とは、対をなす陰の作品とも言えるでしょう。

彼女は、ここで赤ん坊を一番売らせたがっていた自分の気持ちがあることに気がついたのではないかと想像させるのです。

出典・コピーライト

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